90年代を代表する伝説的な大会。センバツで準優勝した松商学園に、甲子園デビュー大会で堂々のベスト8入りした大阪桐蔭、そこに前年優勝の天理、準優勝の沖縄水産、それに帝京・池田・桐蔭学園といった実力校に、センバツ躍進組のミラクル市川、鹿児島実らが優勝戦線に絡む、非常に面白い大会となった。
京都在住の筆者が最も応援していたのはもちろん、プロ注目右腕・細見擁する北嵯峨だ。2回戦スタートで秋田と対戦。とてつもなく良いくじ運と思っていたが、ふたを開けてみるとバッテリーの菅原コンビに苦しめられ、常に先手を取られる苦しい展開。一点ビハインドの最終回にどうにか追いつくも、その裏内野守備が乱れサヨナラ負け。早々に大会を去った。
3回戦は、とても見ごたえのある試合が続いた。
北嵯峨に勝った秋田は3回戦で横綱・大阪桐蔭と対戦。戦前の下馬評を覆し、8回を終えて3-1と、まさかの秋田リードで最終回に。しかしここから大阪桐蔭が真価を発揮する。2死から、この日ヒット、ツーベースを放っていた沢村がスリーベースで出塁すると、ここからヒットで1点差、さらにヒットで一三塁。ここで投手の和田が自ら二遊間を破るタイムリーを放ち土壇場で振り出しに。勢いにのる大阪桐蔭は11回表、なんと沢村がライトスタンドに決勝ホームラン。サイクルヒットを達成するとともに、これが大会通じて最も大阪桐蔭が苦しんだ試合の決勝点となった。
その前の試合では帝京と池田が熱戦。2年生・三沢の満塁ホームランで帝京が8回裏にひっくり返すと、最終回に池田が追いつき延長戦に。そして延長10回、帝京・稲元にサヨナラツーランホームランが飛び出し、高校球界屈指の打線同士のガチンコの打ち合いは、8-6で帝京に軍配があがった。
春準優勝の立役者・上田擁する松商学園はプロ注目左腕・井手元擁する四日市工と対戦。大会を代表する左右の好投手の投げ合いが期待された一戦は期待通りの大熱戦。延長16回までもつれ込んだ一戦は、満塁から上田へのサヨナラ死球でピリオドが打たれた(4-3)。投げた瞬間両膝から崩れ落ちがっくりとうなだれる井手元の表情が印象的だった。
その延長16回の熱戦に割りを食ったのが柳川だ。その日の第四試合で、2回戦で天理を破った佐賀学園に勝ったのだが、試合終了時刻は20時をすぎていた(確か)。
そしてなんと柳川はくじ運悪く、翌日の準々決勝の第1試合に登場するのだった。前日の試合から実に12時間後に次の試合。約22時間のインターバルがある対戦校・沖縄水産との疲労の差は歴然で、善戦むなしく4-6で敗れ大会を去った。
その準々決勝では、エース上田に前日の疲労が残る松商学園が2年生の松井擁する星稜に接戦の末敗れる波乱があった。
大阪桐蔭と帝京、東西の横綱同士の一戦では、3-2大阪桐蔭リードの6回、桐蔭レフトの井上が、ラッキーゾーンのフェンスによじ登り同点ホームランをつかみ取り、ABCの実況アナに「塀際の魔術師!!」と言わしめた。その後桐蔭の打線が爆発し11-2で勝利。
この3回戦と準々決勝の濃密な3日間。この年はなぜか甲子園で観戦する機会がなかったのだが、もし今の年齢でこの時代、この3日間のすべてを現地で見たら、どんなに幸せなことだろう。ベスト16が出そろったときに友だちと組み合わせ表を見ながら「優勝どこやろなぁ」と予想しているとき、あまりの顔ぶれの豪華さに「もう決められへんわー!」とニヤニヤしてしまったのを昨日のことのように思い出す。(筆者は迷いに迷い、沖縄水産を選択)
準決勝では沖縄水産が7-6で鹿児島実を振り切り、2年連続で決勝進出。さすが2年連続となるとこなれたもので、決勝前夜に、宿舎でキャプテン・屋良がオリジナルメッセージ付きのTシャツを見せ、「ド根性でぃ!」とドヤるのは熱闘甲子園のおなじみコーナーとなっていた。
準決勝もう一試合は大阪桐蔭が7-1で快進撃を続ける星稜を力でねじ伏せ、初出場で決勝進出。
そして、決勝の沖縄水産対大阪桐蔭。実に幸せな時間だった。沖縄水産が大阪桐蔭のエース和田に襲い掛かり3回に5得点の猛攻を見せ逆転すると、大阪桐蔭は4-7で迎えた5回裏に6点を奪う猛攻で一気に再逆転。肘を疲労骨折しながら投げていたと後に報道された大野倫には、もはや大阪桐蔭打線を抑えられる球威はないが、それでも無慈悲に投げ続けさせる裁監督。鬼。
結局13点を奪われボコボコにされた大野は、大会通じてマウンドを守り続け、2年連続で準優勝に終わったチームとともに悲運のヒーローとなった。
恐ろしいほどの打棒と投手2枚看板で夏初出場で優勝を飾った大阪桐蔭。創部4年目で突如現れた高校野球の新たな盟主が黄金時代を築くまでには、意外や意外、このときから10年以上もかかるのであった。