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マモノが起きた必然(金足農3×-2近江)

投稿日:2018年8月19日 更新日:

今年もまた、球史に残る逆転劇が生まれた。

準々決勝第四試合は、1点を追う金足農が最終回無死満塁のチャンスから劇的なツーランスクイズを決め、逆転サヨナラ勝利を収めた。

最終回、逆転サヨナラを期待する観客の大声援を受けた金足農が、見事土壇場でひっくり返したわけだが、振り返ってみると最終的に金足農が勝つようにシナリオが決まっていたかのような印象を受けた。

よく土壇場での逆転劇を指し、「甲子園にはマモノが棲んでいる」と表現されることがある。筆者は、マモノの正体は判官贔屓で身勝手・気まぐれな観客たち、そしてときには自分の責務を逸脱してでも試合をコントロールしようとする傲慢な審判員だと理解しているが、マモノに好かれるか否かはプレーしている選手やチーム次第だ。今回どのようにしてマモノが「起きた」のか、逆転劇に至るまでの経緯を振り返りたい。

まず、戦いの前から金足農は高校野球ファンから応援される要素がそろっていた。最後の東北勢。公立、しかも農業高校。エース吉田は大会屈指の好投手。3回戦で優勝候補・横浜高校に大逆転勝利。勝った後の全力で校歌を歌う清々しさ。これだけの要素がそろうと、滋賀県代表の近江高校であっても完全なアウェーとなる。

実際に序盤から、「金足がんばれ」という雰囲気で試合は進んだ。だが、好調な近江打線は吉田の球をとらえ、4回表に今大会大当たりの住谷がライト戦にタイムリーツーベースを放ち近江が先制する。エラーで出したランナーがツーアウト覚悟の送りバントで得点圏に進んでからのタイムリーと、金足農にとっては嫌な点の取られ方で先に点を取られた。

だが、5回裏、4回にエラーした1番菅原天空(ご両親がラピュタ好き)が1死からスリーベースを放つと、佐々木大が2球連続でスクイズを仕掛ける。ファールになった直後の球を見事に転がし、焦った投手・林のグラブトス失敗もあり同点に追いついた。

対する近江。グランド整備を挟んだ6回表にまたもや吉田をとらえる。先頭土田が三塁線を破るツーベースで出塁すると、家田の送りバントで一死三塁。ここでこの大会絶好調の4番北村が前進守備の三遊間の間を抜くタイムリーヒット。金足農は追いついた直後に痛い勝ち越しを許した。

6回表、金足農・吉田対近江・北村の緊迫した勝負。

しかしこの直後にビッグプレーが起きる。4回同様に5番有馬が一死一塁から送りバントで住谷につなごうとするも、バントは飛球となった。ここで打者・有馬がフライアウトと決めつけて走っていないのを見た吉田がわざとバウンドさせて素早く二塁転送、そして一塁転送でゲッツー。ピントを防いだとっさの好プレーに甲子園が沸いた。

この後、金足農は6回、7回と近江2番手・林の変化球に対応できず反撃の糸口をつかめないものの、必死に終盤のピンチで近江の追加点を食い止める。8回表は内野の乱れで無死一二塁のピンチを迎えるも、投ゴロ(ここでも吉田が冷静な判断で三塁封殺)、右フライ(走者はタッチアップできず)、そして6回にタイムリーを打たれている北村は投ゴロでなんとか凌ぐ。

8回裏のチャンスを生かせなかった直後の9回表の守備も、連打で無死一二塁のピンチを招くが、吉田が再びギアを上げる。見市は見事なまっすぐ見逃し三振で1アウト。そして次打者・林の三塁線へのバントはすばやく三塁転送して封殺。再三の好フィールディングでピンチを凌ぐ吉田の姿に甲子園の観客はますます魅了されていく。そして極めつけは二死一二塁で迎えた瀬川への投球。カウント3-2から投じた渾身のストレートは内角低めに決まり、空振り三振。観客のボルテージは最高潮に達した。

最終回の攻撃に至るまでの試合展開、直前のピンチの脱し方。すべてが完璧だ。この時点で、ほとんどの観客は「終盤の連続ピンチを耐え抜いた金足農が劇的な逆転サヨナラ勝利」というシナリオを思い浮かべただろう。そして思ったはずだ。歴史的な逆転劇をこの目で見たい、と。

9回裏、先頭打者の6番高橋選手の名前がコールされると、甲子園に大きな拍手と歓声が起こり、逆転劇を期待する空気に包まれた。これでもう後はフィナーレに向かっていくだけだ。果たして、高橋はストライクゾーンに入ってきたチェンジアップを打ち、三遊間を破る見事なヒットで出塁。続く菊池は追い込まれながらもスライダーに反応してレフト前に落とす。ここまで林の変化球にタイミングのあっていない金足打線だったが、この土壇場にきて執念の連打。大歓声に気負った林の制球が若干甘くなったためにこの連打が生まれたのだろう。試合翌日に映像で確認すると、やはりヒットを打たれた2球は甘かった。

こうして漫画「砂の栄冠」で言う宇宙空間が出来上がった。もう、止まらない。兵庫県で同じ農業科をもつ有馬高校が友情応援で加わったブラスバンドが奏でるタイガー・ラグ(秋田代表が甲子園で演奏する定番のチャンステーマ)にのって手拍子がさらにプレッシャーをかける。林は耐え切れず、次打者に四球を与えてしまい、無死満塁。

きわどくボールゾーンに沈んでいく二種類の変化球(スライダー、チェンジアップ)でこれまで打者を仕留め続けてきた林ー有馬の二年生バッテリーだったが、この場面で細かい制球で勝負をすることはもはや不可能で、このピンチを脱する術はなかった。カウント1-1から劇的な2ランスクイズを決められ、万事休す。甲子園球場にこの日一番の大歓声がこだまし、金足農が準決勝進出を決めた。

前述した金足農のもともとの立ち位置に加え、コツコツ繋いでスクイズで走者をかえす弱者の戦法、終盤の連続ピンチを脱した粘り、スーパーエースの再三の好守備に気迫の投球、と戦いぶりも最終回の観客の声援を加速させた。彼らは応援したくなるあらゆる要素を得た、まぎれもなくマモノに愛されたチームだった。

この試合も全力で校歌を歌う金足農ナインを観衆は手拍子で祝福した

余談だが、高校野球ファンというのは身勝手なもので、ここまでくるとさらなるドラマを見たいと思う。準決勝で日大三、決勝で春夏連覇を狙う大阪桐蔭を倒し、東北勢悲願の初優勝を第100回大会で達成。という漫画のような展開をついつい期待してしまうが、絶対にこの甲子園が吉田投手の選手生命を絶つ、あるいは短くするようなことがあってはならない。

準々決勝当日の朝、股関節痛があったという報道を見た。無理をしながら投げていたのだろう。準決勝も本人は「投げられます。行かせてください」と言うと思うが、怪我をしているのなら周りの大人が勇気をもって止めてほしい。県大会でも登板がなかった二番手投手に投げさせて大敗したとしても、彼らの功績にケチがつくことは一切ないし、むしろ一人の投手に頼ったチーム作りをしている全国の指導者に、あるべきチーム作りを考えさせる大きなきっかけとなるだろう。次の100年に向けて、そのほうがより意味のあるメッセージになるのではないか。

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